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アトリエとマダムと年の瀬について

2025/12/18
in ストエレの奇妙な制作日記

12月は師走というが、当バンドの猫師匠こと奇怪田猫太郎と、わたくし極夢幸雷も、それなりにせわしない日々を過ごしている。

我がアトリエは今年度最高の散らかり具合であり、「今年こそはきちんと大掃除をする」という計画は早々に破綻した。

なぜこのような現状になったかというと、クリスマス&お正月という立て続けにやってくるビッグイベントで賑わうSNSに、ストエレの作品で色を添えたいという欲望ゆえである。

ストエレには計画性はないが、夢はたくさんあるのだ。

さて、先日私は、とある駅ビルの一角をうろうろしていた。制作に使う材料の買い出しに来たのであるが、お目当てのその店がいかんせん入りづらいのである。

そこは、年季の入った立派な一枚板の看板を構える、着物屋であった。

外から覗く店内には、見るからに高そうな美しい着物や帯が飾られており、どこか神々しくすらあるオーラを放ち道ゆく人々を威圧する。

一方の私は、履き潰したスニーカーにライダースを羽織り、とどめに『STRANGE ELECTRIC DREAMS』のロゴ入りトートバッグを肩にかけた、明らかに場違いな風貌である。

このようなものが、このような店に何の用があるのか?と誰もが首を傾げるところだが、長年この駅ビルに通う私は知っていた。

この店では、着物の『はぎれ』が格安で販売されているのだ。

私は、どうしてもそれが欲しかった。

そのはぎれは、店の入り口のすぐ横の棚に置かれているため、ほんの一歩、足を踏み入れれば簡単に手にすることができる。しかし、その一歩がなかなか踏ん切りがつかない。怪しげな路地裏にあるライブハウスにならいくらでも入れるが、こうした普段行かない店に入るには、なかなか勇気が必要なものである。

せめてスニーカーではなく、もう少し綺麗な靴でくればよかったかもしれない。「日をあたらめてまた来ようかな」などと一瞬思ったが、考えてみたら私が持つ靴はこれと似たようなものばかりだ。下手したらゴリゴリにスタッズがついていたりするので、そう考えると今履いている靴はマシな方である。

どのみち場違いな客には変わりあるまいと、意を決して足を踏み入れた。

おぉ。

思わずため息が漏れる。間近でみると、やっぱり着物というものは美しいのだと改めて思う。が、お目当てはこれではない。私が欲しいのははぎれだ。

そそくさと移動し、いざはぎれを手に取ってみると、やはりこちらも美しい。質感や色合いが絶妙である。はぎれとはいえ、ベタベタと触るのは憚られたため、目視で制作に使えそうな記事を吟味する。

「勇気を出して良かった」とほくそ笑んでいると、明らかに場違いな風貌の女が血走った目ではぎれを物色していることを奇怪に思ったのか、店員さんが「何かお作りになるのですか?」声をかけてきた。

着物を上品に着こなした、美しいマダムである。

私が簡単に事情を説明すると、マダムは「あら素敵」と微笑み、生地について丁寧に説明をしてくれた。

1枚100円のはぎれを物色する客に対して、なんというホスピタリティであろうか。帯にサラッとスマホを挟んでいるあたりもとてもカッコいい。

遠い昔、猫太郎が「うちのばあちゃんが、貴金属買取業者に着物を安く買い叩かれたらしいから気をつけろ」というような話をしていたが、私は着物など一枚も持っていないのでその心配はない。しかし日本人として、いつかはMy着物を持ってみたいものである。

そして私は、合計3枚のはぎれを購入し、まるで自分もとても上品な人間になったような気分で、アトリエへと帰還した。

忘れていたが、アトリエは現在壊滅的な状態である。散乱した画材や粘土を踏まないように注意しつつ、机の上に戦利品を並べていく。

「来年こそは絶対に大掃除をしよう」と固く誓い、ほんの少しだけ背筋を伸ばして、私は今日も制作をする。


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