「人間くん、知ってるかい?頻業や模型の制作ってのはね、グレーの粘土で作るのがキホンなのよ」
ある日の会議で、猫が私に言った。
猫とは当バンドのギタリスト奇怪田猫太郎のことであり、私は彼を「猫」と呼び、彼は私を「人間」と呼ぶ。これには深い事情があるのだが、ここでは割愛する。
得意げな猫に、私は面倒な予感を覚えつつ聞き返した。奴がこんな風に言うのは、だいたい自分が最近ネットで学んだ知識を披露したい時だからだ。
「どうして?」
猫はにんまりと笑みを浮かべ語り出した。
「あのね、グレーの粘土ってのは、影ができるから形が分かりやすいのよ。だから、模型や人形なんかは、グレーの粘土で作るわけ。このプッピスの帽子もグレーの粘土で作ったんだよね」
つい一週間前まで、白色の粘土で製作をしていたはずの猫は、まるで生まれた時からグレーの粘土で製作をしていたかのような口ぶりで、渾身の作品である『プッピスの帽子』を取り出した。
確かに、素晴らしいできである。
「なるほど」
しかし私も負けてはいられない。
「そんなことより猫くん、これを見てよ」
そして紙袋から、前夜徹夜で製作した自信作『もみの木』を取り出す。「おぉ……」と感嘆のため息を漏らす猫を見て、私はニヤリと笑った。
「猫くん、キミはもみの木と松の木の違いを知ってるかい?」
「……いや、知らない」
目の下にクマを作り、怪しげな笑みを浮かべる私を見て、猫はやや警戒した表情を浮かべた。私がこんな風に言う時もまた、ネットで学んだ知識を披露したい時だからである。
「もみの木と松の木ってのはね、同じマツ科なの。似てるけど、葉っぱや松ぼっくりの形も違うんだよ」
しばらく何かを考えた後、猫は言った。
「ところで、このプッピスの帽子をもう一回見てよ」
おそらく、何か他に披露できる知識を探したものの、見つからなかったのだろう。
猫はもみの木を端によけ、『プッピスの帽子』を机の真ん中に置く。
「いや、もみの木をもっとよく見てよ」
負けじと私も、もみの木を中央に並べる。『プッピスの帽子』と『もみの木』が並んだその瞬間、我々が目指す作品の完成イメージがより明確に見えてきた。
「「いいねぇ」」
こうして、その日の会議は終了した。
私、極夢幸雷は現在、次回の会議でお披露目予定である『門松』を目下製作中である。
なお、『プッピスの帽子』と『もみの木』を使ったアニメーションについては、子供たちが待ち侘びる12月某日、ストレンジャーなみなさまにもお届けする予定なのでお楽しみに。



