「最近オレねぇ、水を飲んでるのよ」
ある日の会議で、猫が言った。
水なんて誰でも飲むだろうと思いつつ、私は問い返した。
「なんで?」
猫はにんまりと笑い、待ってましたとばかりに語り出した。
「やっぱさ、年をとってもカッコよくありたいわけ。そのためには、水を飲むのは大事らしい。オレね、2リットル飲んでるの。毎日。これおすすめよ、人間さんもやれば?」
つい先日、「最近レモン果汁にハマっている」と言っていた猫は、まるでもう10年以上も毎日水を2リットル飲んでいるかのような口調で言った。
確かに、ステージに立つバンドマンにとって、見た目は大切である。昼夜家に引きこもり制作活動に明け暮れる我々であるが、やはり美しくあることに越したことはない。
水を飲んで代謝を上げることは、健康面でも良さそうである。
しかしレモンはどこ行った?と思いつつ、それ以上に最近気になっていた事柄について、猫に質問した。
「水ってさぁ、やっぱ代用品で撮影するしかないよね?」
ストップモーションを制作する上でネックとなるのが、水・炎・煙など『形を固定できないもの』の撮影である。表現や演出として利用したくても、固定できないのではお話にならない。
例えば、『流れる川』を撮影したい場合、動画ならそのままビデオを回せば済むことだが、コマドリで人形の動作と合わせるとなると、『固定できる水に似た質感のもの』で代用する他ないのである。
「そうだねぇ……なんかジェルとか……レジンとかかねぇ。煙ならワタで作ったりもできるけど」
もちろん、CGで作成し後から合成するという手法もある。しかしこうして、あーだこーだとアイディアを出し合い、試行錯誤するのもまた楽しいのである。
我々には行きつけの100均が数箇所あるが、最近では100均にもあらゆる工作グッズが販売されていて、時には撮影に役立つ掘り出し物が見つかることもある。
この後、地元の100均でも周るか……と思いつつ、私は帰路についた。
なんとなく気まぐれで、ペットボトルの水を買ってみたが、一日で飽きそうな予感はしている。



