写真を撮る時には、瞳に光を入れると対象がより生き生きとして魅力的に見える。
これは、人形にも言えることだ。
ストップモーションとは人形に命を吹き込む作業であるが、撮影の際、その瞳に光があるかないかで、その印象は大きく変わる。
我々がこのことに気づいたのは、数ヶ月かけてベラとプッピスのキャラクターを作り上げ、宣材の撮影を終えた時であった。
「なんかさぁ、サングラスがキラキラしてる方が、圧倒的に可愛くない?」
私、極夢幸雷は猫(奇怪田猫太郎)に言った。
この言葉には「サングラスを光らせよう、絶対に。そうでないと私は認めない」という強い意志が宿っていた。
その気配を察した猫は『サングラスの作り直し及び撮影のやり直し』というタスクを想像し、数秒の沈黙の後、沈痛な面持ちで答えた。
「……このサングラスは、作るのが大変でしてね。ほら、小さいし、カーブとかもムズイのよ。光は後から編集でも足せるし……」
ちなみに、制作に関しては主に人形関連の制作は猫、背景関連の制作は私が担当している。
そのため、サングラスを作り直す場合、その作業を担うのも猫なのだ。
しかしゴニョゴニョとごねる猫の背中には「確かにその通りだ、やるしかない」というどこか諦めにも似た哀愁が漂っていた。いざ言われてみれば、確かに輝きが足りていないような気がしたのだろう。
「……作り直すか」
「うむ」
当初の計画よりもすでに数ヶ月遅れていることにより、焦りと不安に苛まれていた我々であるが、『妥協』というものができない性質なのだから仕方がない。どちらかが「納得できないからやり直そう」と言い出した場合、回答は『YES or はい』しか用意されていないのである。
『いいのか?お前たちは締切に追われる身。妥協して制作を進めるべきではないのか?』
脳裏に浮かんだそんな言葉を瞬時に粉砕し、我々はサングラスの作り直しおよび宣材などもろもろの撮影のし直しを決定した。
そして後日、キラキラと瞳を輝かせた猫が持ってきたのが、現在のベラとプッピスのサングラスである。いい感じに光沢が増し、光を反射してくれる。
「いやぁ、これねぇ、このつなぎの部分、何で作ってると思う?実はねぇ……」
猫の話は長い。ただでさえ話が長いのに加え、奴はなぜか同じ話を3回繰り返すという悪癖を持つ。
私はこうして、延々と続く猫の制作の苦労や工夫、こだわりのポイントを、死んだ魚の目をして聞くのである。



