先日、猫と揉めた。
物語に登場する、とある役割を持つ某キャラクターを「おじさん」にするか「おばあさん」にするかで意見が食い違ったのである。
猫は「こいつはおじさんであるべきだ」と主張し、私は「いや、おばあさんの方がグッとくる」と訴えた。
我々は、各々が「自分の意見が絶対的に正しい」と心から信じているので、このように意見が対立した場合は、バチバチに火花を散らしながら激しいバトルをすることとなる。
それによって新たな解決策が見つかるような場合もあるが、しかし、こうしたバトルは元来穏やかな性格であり、争い事を好まない我々を日々疲弊させていた。
「できれば揉めずに話し合いを進めたい」「平和的な解決方法を見つけたい」「でも妥協はしたくない」
これは我々ストレンジ・エレクトリック・ドリームズにとって、長年の大きな課題なのである。
さて今回はどう解決しようか、と腕組みをして思い出したのだが、そういえば昔、猫が奇妙なことを言い出したことがある。
その日も例の如く意見が対立し、両者一歩も引かず話は平行線を辿っていたのだが、おもむろに猫がこんなことを言ったのだ。
「人間さん。俺は子供のころ、結構勉強ができるタイプだったんだけどね。その時、俺は頭の中に先生を作って、なんでもその先生に相談してたのよ」
「せんせい……?」
「勉強とかしてても、頭がこんがらがることってあるじゃない。そーゆー時に、先生に相談して、答えをもらうわけ。まぁ、要は頭の中で一人二役で会話をして、考えを整理しようって話なんだけど」
「……なるほど?」
話の終着点が見えぬまま何となく相槌を打っていると、猫はキラリと目を輝かせて、こう言った。
「だからさァ、バンドで揉めた時も、俺と人間さんだけじゃなくて、”架空の第三のメンバー”を頭の中で作って、その人に相談してみればいいと思うんだよね」
自信満々の猫に、私は尋ねた。
「その、第三のメンバーってのは、どっちの頭の中で作るわけ?」
「おれだね」
「それもう、ただの猫じゃん」
「まぁそうなるか」
「ただ猫が二倍になるだけじゃん」
「まぁそうかもね」
「しかもそれを、あたかも第三者の意見かのように主張してくるんだよね?」
「そう」
「やっかいじゃん。却下」
こうした珍妙な意見をも、猫という生き物は1000パーセントの自信で伝えてくるからタチが悪い。これは何も、ふざけているわけでも適当な意見で言いくるめようとしているのでもなく、心の底から「これは名案だ」と信じているのである。
そして不思議なもので、人というのは自信満々に堂々と言い切られると「そうなのかな?」と思ってしまうものである。
私も、猫と出会った当初はこの物言いに騙され、トンチンカンな意見を受け入れ幾度となくひどい目に遭ってきたものだが、もはや猫がいくら自信満々に意見を述べようが、騙されることはない。
いくらパッケージが立派でも、この意見のように中身がポンコツな場合もあるのである。
だから私は、猫がいくら「おじさんだ」と主張しようが、それに負けないくらいの自信を持ち「おばあさんだ」と主張をするのである。
ただ、この日は集合時間が少し遅かったこともあり、私にはバトルをする気力が少し足りなかった。そこで、カフェで売られている「クリームチーズ入りブルーベリーベーグル」を注文したところ、これが驚くほど美味しかった。
あまりにも美味しかったので、おかわりにもう1つ注文したほどだ。そしてその際、この美味しさを伝えたくて、猫に少しだけちぎって分けてあげた。
そして元気を取り戻し、さてバトル再開だと腕まくりをしたところ、猫がポツリと言った。
「なんか、おばあさんでもいいかも」
思わず、ベーグルを吹き出しそうになった。猫曰く、「別にベーグルをもらったからとかじゃなくて、人間さんの説明を聞いてたら、おばあさんでもいいな、むしろそっちの方がいいなってだんだん思えてきたのよ」とのことだが、LINEで同じ説明をした時は、猫は一切聞く耳を持たなかったのである。
私は、心のメモ帳を取り出し、刻み込んだ。
「猫とのバトルの際は、ブルーベリーベーグルを用意すべし」
頭の中の先生を否定するつもりはないが、こちらの方が今後の平和的解決に役立つ可能性は高い。
ちなみに、今回の議論となったキャラクターは、この中央の店の店主である。第一話で登場することになるので、お楽しみに。



